That's How Long i'll Be Loving You/Bunny Sigler

ザッツ・ハウ・ロング・アイル・ビー・ラヴィング・ユー(紙ジャケット仕様)

ここのところEpicソニーがやたらと気合を入れて、怒涛の勢いで、プロデユーサーチームGamble&Huffが設立したレーベルであるPhiladelphia International Recordsの再発を紙ジャケ仕様で行っている。作りもアナログのアルバムっぽく、中のスリーブまで作成されていてなかなか凝ったモノなのだが、実際P.I.Rの再発は以前から結構なされており、それが2in1だったりで、今回の再発を買うのが賢明かどうかというのは微妙なところである。ところが、よしゃいいのにまたディスクユニオン・ソウルブルース館が、1枚買う毎に引換券1枚、5枚たまるとオリジナル・Tシャツ贈呈なんていうキャンペーンを張るものだから、お蔭様でTシャツが3枚ほど増えた。好きなんよね、ユニオンのオリT。だもんでこのアルバムも結局買い直し。チョー馬鹿みたい。さてこのBunny Sigler、P.I.R.、Salsoulとフィリー系のレーベルを渡り歩き、後にInstant Funkというバンド結成したりと、非常に息の長い歌手。知名度的には今一つパッっとしないが、人気盤はやはりこのP.I.R時代ということになろうか。このアルバムもこれぞPhily Dancer!と言った趣の1曲目「Things Are Gonna Get Better」、3曲目「I Lied」や5曲目O'Jaysの「Love Train」、9曲目Ray Charlesの原曲を斬新にカバーした「What'd I Say」などダンサーあり、バラードありと非常にバラエティに富んだものとなっており、アルバム通して楽しめる内容となっております!奥さん一家に1枚いかがでしょう!

MONTARA/Bobby Hutcherson

Montara

Blue Noteというレーベルもまた、ジャズのメインストリームを突っ走った50年代後半〜60年代前半を終えると、60年代後半〜70年代前半にかけてソウル・ジャズ系のアルバムを量産し、DJ達のネタの宝庫状態となるのだが、流石にもうやりつくしちゃった感があるのかな。ただ折に触れこういったアルバムの再発がなされ、その販売価格が年々下がっていく傾向にある。僕のような人間には買い忘れを再度拾うという意味で大変有難いのだが、世の中CDが売れてないんだろうなあ、などと業界の不振が気になったりもする。それはさておきボビーのはっちゃんである。このアルバムもマスト中のマストという位置付けで、サンプリングソースとしても有名なラテン系のアルバムなのだけれど、ホーンが好きな僕としてはヴィブラフォン奏者がリーダーだというだけで何となく敬遠してしまっていた。損してたなこりゃ。タイトル曲である2曲目「Montara」がポワーンと心地良い。スチャダラパーの「サマージャム'95」の元ネタってこれだったのね。とか恥ずかしいことを今更知ったり。6曲目「Yuyo」、7曲目「Oya Como VA」なんかもやたらとカッコイイ。実を言うとラテン系というのも今まで何の理由もなく敬遠してきたのだけれど、ちょっと考えを改めなければならないと思った。

Let Me Be Your Man/Tyrone Ashley's Funky Music Machine

Let Me Be Your Man

レコード屋、もっと限定して言えば新宿ディスクユニオン・ソウルブルース館の新譜コーナーのポップに、「激レア」だとか「世紀の発掘」だとかの煽り文句が書いてあったら、まず間違いなく買う。勿論、そう言われるくらいだからそのアーティストの事など一切知らないし、音も全く想像できないけれど、取り合えず買う。もう何年も続く不文律。今まで例えばSoul BrotherやVampisoul、P-VINEといったレーベル買いのことは書いて来たけれど、僕の中では「ソウルブルース館買い」というのもかなりの比重となっている。んで、これもそんな一枚。ご丁寧に日本盤のオビにまで「激レア」「発掘」の文字が躍る。ただ毎年というか下手すりゃ毎月そんな謳い文句の再発がなされている訳で、今更ながらアメリカってホント広すなあ。んで、このアルバム。1曲目からいきなりバラードで、え?アレ?と不安になったのだが、2曲目「Just A Little While Longer」、9曲目「Gotta Clean Up The World Pt.1」10曲目「同Pt.2」がかなりデキの良いFUNKチューン。多分この9,10曲目がシングルのA/B面なんだろうね。あとはデローンとしたバラードありインスト曲ありで可もなく不可もなく。やっぱり、発掘されるまでは寝かせてあっただけのことはある、ローカル色満載なアルバムである。そりゃまあ全米大ヒットになる要素なんかは当然ないのだけれど、かつて、そして恐らく今日でも、こういったオラが村のヒーロー的なバンドやアーティストがアメリカにはごちゃまんと存在していた(いる)と思うと、ちょっとした男のロマンであり、味わい深いものがある。あと大変有難い事に底無し沼のごとくキリがない。これからも可能な限り「激レア」「発掘」とはお付き合いしていきたい所存。

Stone Alliance/Stone Alliance

Stone Alliance

テナーにSteve Grossman、ドラム、パーカッションにDon Alias、ベースにGene Paraという鬼のようなメンツで組まれたバンドで、1976年作。Steve Grossmanという人は、Michael Breckerと並んで大学のジャズ研御用達のテナー奏者である。吹奏上がりで、中学、高校時代からストイックに楽器を練習してジャズ研に入部してきたような連中は、GrossmanとBreckerの写真を額に入れて飾り、毎朝礼拝した後に鬼の形相で楽器練習に励むという。冗談はさておき、僕はやっぱりこういうテクニック過多な連中というのは、まあ半分以上はやっかみなんだけれど、どうしても好きになれないし、普段は、はいはいお上手お上手とやりすごして見向きもしない。単音ロングトーンをブロウして得意気な顔をしている黒人の方がよっぽど好感がもてるというものなのだけれど、4曲目「Sweetie-Pie」、5曲目「Samba De Negro」みたいな曲をやられてしまうと、あー、やっぱりテクニックって大事。凄く大事。マジメに日々練習してきた人が一番エライ!などと思わされてしまうからアラ不思議。どちらかと言うとパーカッショニストとして著名なDon Aliasのドラムも鬼のようにカッコイイ。嗚呼、何時か雷にでも打たれて突然楽器がアホみたいに上手くなったりしないかなあ。

BAMBOO/村岡実

バンブー

ちょっと趣を変えて和モノなど。もっともこのアルバムも3曲目「陰と陽」というキラーチューンのおかげでRare Grooveの文脈で語られる一枚。リーダーの村岡実は尺八奏者なので、勿論、民謡や演歌での仕事の方が多いのだけれど、琴や琵琶、和太鼓などで編成される、ニュー・ディメンション・グループを率いてジャズ寄りのアルバムも何枚か出している。和楽器でジャズというと能管奏者の一噌幸弘なんかが思い起こされるのだけれど、このアルバムの録音が1970年というから、そういったものの先駆者的な立場にあったという事になるのだろうか。先程の「陰と陽」が途中、必殺のドラムブレイクを含めてかなりヤバいのは勿論だが、それ以外の曲も和楽器とジャズの折衷が醸しだす面妖な雰囲気がなんともイカす。2曲目「最上川船唄」の和の曲の持つ摩訶不思議な響き、4曲目ビートルズのカバー「And I Love Her」などは最早全然別物の呪術的な何かにすら聴こえるし、6曲目オルガンをフィーチャーした「Soul Bamboo」もデローンとしていてかなり深い。ジャパニーズ・スピリチュアル・ジャズと欧米に胸を張れる一枚だと思う。サックスの持ち替えでテナーからソプラノと曲によって使い分けるミュージシャンは良く見かけるが、テナーから尺八の持ち替えとかがもしもあったら、それはそれでシビレるんじゃないだろうか、などという妄想をした。

サルベージNo.2

更新が空いたが、まだだ!まだ戦える!ここ最近は音楽の更新をダーっとしてきた訳だけれど、そういえば昔書いた文章に、その更に昔の音楽体験話を書いたモノがあって、戯れにそいつを再掲してみようと思う。従って今日は改行ありで。チト長いけどご勘弁を。

2002年7月12日(金)芽瑠璃堂のこと。

1980年代後半、2年目の大学受験浪人に突入した僕は、勉強そっちのけで黒人音楽、それも戦前ブルースにハマっていた。今思えば親の庇護の下2年も浪人生活をさせてもらい、何不自由なく暮らしている身の上でブルースもへったくれもあったものじゃないとは思うのだが、当時はかなり真剣に傾倒していたように思う。きっかけは正確に覚えてはいないが、恐らく好きなロックのアーティストが、

マディ・ウォーターズは最高だぜ。」

などとインタビューで発言していたとかそんな単純な理由が入り口だったように思う。当然ながら、流行歌やせいぜいチョロっとロックを聴いていた程度の耳に、雑音混じりの録音で、ギター弾き語りの黒人のしぼり出すうめきのような歌など、初めのうちはちっとも良さが解らなかった。正直に言えばむしろ後付けで読んだ書籍に出てくるブルースマンの破天荒なスタイルに憧れ、そんなものに思いを馳せながらCDを聴いているうちに、次第にブルースそのものを好きになっていったというところであり、6畳の自分の部屋でCDラジカセからブルースを流し、

「こいつきっと台所で女とヤってる最中、後ろから別の女に刺されて死んだとかだろうなぁ。」

とか下らない妄想をしたものである。頭の具合がよろしくないのは今に始まったことではない。

当時、戦前ブルースの再発はドイツやオランダなど欧州で盛んで、輸入レコード店でもなかなか取り扱いがないのが実情だった。そんな折、本や雑誌に頻繁に広告を出している「芽瑠璃堂」というレコード屋を発見した。黒人音楽専門店だという。そんなレコード屋は他にもきっとあったのかもしれないが、頻繁に広告を目にするのはこの芽瑠璃堂だけだったように記憶している。広告が個性的で記憶に強く残っただけかもしれない。何れにせよ渋谷と吉祥寺に店を構えるこのレコード屋の、人が2人通れるかどうかと言うほどの狭いスペースで営業していた吉祥寺店に足しげく通うようになるのに時間はかからなかった。音源に対してだけは見せるフットワークの良さもまた今に始まったことではない。

後から知ったことだが、ここの店員さんは皆海千山千の黒人音楽マニアで、客に対しても結構厳しい人が多かったらしいのだが、当時吉祥寺店の店長だったと思しき方は、思い出すと顔から火が出る位恥ずかしい話だが、昨日今日、本を読んだのがミエミエ程度の理論武装で生意気にブルースについてあれこれ言っていたであろうろう僕に、とても親切にアーティストや入荷情報などいろいろなことを教えてくれたように思う。黒人音楽を好きになろうとしている小僧に厳しくして、音楽そのものを嫌いになるようなことがあったら忍びないという慈悲にも似た感覚だったのかもしれない。メンフィスジャグバンドやキャノンズジャグストンパーズ、ブラインドレモンジェファーソンやスリーピージョンエステスなんていう素敵な音に出会えたのもこの店のおかげだった。

晩年恐らく経営がひっ迫してか、吉祥寺店をたたんだ時も店長さんは、

「渋谷でまた会おうね。」

とやさしく声をかけてくれた。そしてなんとなく渋谷には一度も足を運ぶことなく、程なく芽瑠璃堂も潰れてしまったのだが、確か潰れた直後くらいに渋谷店の跡地に行ったときはビルそのものも差し押さえられており、ものすごく雑然とした雑居ビルが嫌に切なく、一度も足を運ばなかったことを酷く後悔したのを憶えている。そして僕がソウルだファンクだと聴き出すようになるのはずっと後年で、出来れば今色々と話をしてみたかったと思わないでもないが、それも又叶わない願いである。

そんな店長さんに言われたことで一つだけまだ手を付けていないことがある。彼は良くこう言っていた。

「ゴスペルを聴くといいよ。ゴスペルは奥が深くてすごいから。」

僕は確か、

「宗教音楽はどうも得意じゃなくて。」

程度のことを言ってお茶を濁し、なんとなくその時はその内歳を食ったころにでも聴いてみようかな程度に思った。恐らく当時の店長さんと今の僕は同世代くらいだと思う。そろそろゴスペルなんかをじっくり聴いてみるのも悪くないな、と最近考えている。


以上、8年前に書いた当時の12〜3年位前の話。足すと何年だそれ。ちなみにその後、当時の店長は恐らく大場さんというお名前の方だという事をネットのどこだかの文章で知った。芽瑠璃堂自体も、現在はインターネット通販のショップとして復活しており、既に5周年になるという。僕は未だにゴスペルはちゃんと聴いてはいないけれど、ソウルだファンクだは細々とではあるが聴き続けている。世の中は色々ですな、というお話。

SOUL MAKOSSA/AFRIQUE

ソウル・マコッサ

P-VINE繋がりでもう一枚。というかその気になればP-VINEの再発でこのコーナー全部埋まるくらいなんだけれど、これはP-VINEだから買っちゃいましたというよりは、結構再発を待ちわびた一枚。とか言いつつ買って3年程寝かせた。なんか買うと安心しきってゲームオーバーにしちゃうのは本当に悪い癖。んで、MainstreamというRare Groove秘宝館みたいなレーベルからリリースされたこのアルバム、まずもってメンバーがヤバい。ギターにDavid T. Walker、ベースにChuck Rainey、んでオルガンにはなんと!かの名ギタリスト御大Joe Passにカッティングを命じるというとんでもないアルバム「Reelin' With the Feelin'」でお馴染みのCharles Kynard!これはもうメンツだけでも買いなんだけれど、1曲目アフリカの雄、Manu Dibangoのカバー「Soul Makossa」から全開フルスロットル。しかしSoul Makossaって本家本元のManuが一番野暮ったいのは何故なんだぜ。それはそれとして本当に全編にわたってワウギターによるカッティングが気持良い超ナイスなアルバム。ナイスですよー!アンタなんで3年も寝かせましたかー?涼宮遙じゃあるまいし!反省することしきりです。ごめんね、孝之くん。